23
僕は2時間も前からこうしてベンチに座っている。
ヤンキースのウインドブレイカーだけではさすがに寒い。
僕はベンチから腰を上げるとリンクの真ん中まで歩いて行った。
朝からの雪はもうすっかりあがり、空には満天の星が輝いている。
神々を怒らせたエチオピアの女王カシオペアが、海神ポセイドンによって玉座ごと逆さまにされて永遠に天空の彼方につるされてしまった。
そんな映画の中でのジョナサンとサラの会話を思い出しながら僕はカシオペアを探した。
でも澄みきった冬空に自分の吐く息が白く幕を張り邪魔をする。
息を吸っている間に急いで探す。
それを何度か繰り返してやっと見つけた。
「やっと、逢えたね。」
目の前に息を切らした梢が立っていた。
走ってきたのか、上気した梢の体から白く湯気がたっている。
まっすぐ僕を見つめる輝いた梢の瞳は、東京で出会った時とまったく変わらない。
僕は、彼女をゆっくりと引き寄せると抱きしめた。
頬がひんやりと冷たかった。
僕は、梢の温もりが服を通して自分の肌に伝わってくるまで、何も言わずに抱きしめていた。
「僕たち、やっぱり逢えたね。」
体を放すと僕は言った。
「うん・・・」
僕たちの恋は今から始まる。
でも、もうずいぶんも前から愛し合っていた気がする。
長い間離れていた時間を、梢に対する気持ちが埋めていた。
「君にプレゼントがあるんだ。」
用意していた空色の紙袋を渡した。
「ティファニー・・・開けていい?」
「気に入ってくれるといいんだけど・・・」
空色の小さな箱にかけられたリボンを外すと言った。
「・・・素敵。」
そして彼女は例の指輪をはずそうとした。
「はずさないで。」
僕は、彼女の手をとって指輪を元の位置にもどした。
「これは、僕にとっても大事な指輪なんだ。君と僕を結びつけてくれた・・・そうだろう?だからはずさないで・・・」
僕は、彼女の同じ左手の薬指に重ねてもう一つの指輪を押し込んだ。
彼女の指輪にはプラチナに三つのサファイアが埋め込まれている。
僕が贈った指輪には、同じプラチナに小さなダイアモンドが二つ埋め込まれている。
そしてそれが重なったとき、彼女は思わずつぶやいた。
「・・・カシオペア・・・」
「ふたつで一つ・・・」
指を広げてしばらく指輪を見ていた彼女の目からひと粒の涙がこぼれた。
「ありがとう・・・彼があなたを選んでくれたのね。」
僕は、もう一度彼女を引き寄せた。
とても長くて、柔らかいキスだった。
僕たちは、アニータと翔の待つアパートに向かって歩いていた。
「ね、『オータムインニューヨーク』って観た?」
「もちろん。もう何回も観た。でもね、私は最後まで観ないの。彼女が死んでゆくの、わかっているし・・・それに、おじいちゃんになったリチャード・ギアなんて見たくないもん。」
思わず、笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
「別に・・・」
「ねぇ言ってよ。」
「僕と同じ意見だったからうれしかったんだ。あのシーンをどう思うか、君に聞きたいってずっと思っていたから・・・あーすっきりした。」
「へんなの。」
そう言って梢が笑った。
どんな理由だろうと笑えばいい。
僕なんかさっきからずっと顔がニヤついている。
映画『卒業』で花嫁を奪い取ったダスティン・ホフマンがバスの後部座席でニヤついていた。
きっと、今の僕と同じ気持ちだったに違いない。
僕は2時間も前からこうしてベンチに座っている。
ヤンキースのウインドブレイカーだけではさすがに寒い。
僕はベンチから腰を上げるとリンクの真ん中まで歩いて行った。
朝からの雪はもうすっかりあがり、空には満天の星が輝いている。
神々を怒らせたエチオピアの女王カシオペアが、海神ポセイドンによって玉座ごと逆さまにされて永遠に天空の彼方につるされてしまった。
そんな映画の中でのジョナサンとサラの会話を思い出しながら僕はカシオペアを探した。
でも澄みきった冬空に自分の吐く息が白く幕を張り邪魔をする。
息を吸っている間に急いで探す。
それを何度か繰り返してやっと見つけた。
「やっと、逢えたね。」
目の前に息を切らした梢が立っていた。
走ってきたのか、上気した梢の体から白く湯気がたっている。
まっすぐ僕を見つめる輝いた梢の瞳は、東京で出会った時とまったく変わらない。
僕は、彼女をゆっくりと引き寄せると抱きしめた。
頬がひんやりと冷たかった。
僕は、梢の温もりが服を通して自分の肌に伝わってくるまで、何も言わずに抱きしめていた。
「僕たち、やっぱり逢えたね。」
体を放すと僕は言った。
「うん・・・」
僕たちの恋は今から始まる。
でも、もうずいぶんも前から愛し合っていた気がする。
長い間離れていた時間を、梢に対する気持ちが埋めていた。
「君にプレゼントがあるんだ。」
用意していた空色の紙袋を渡した。
「ティファニー・・・開けていい?」
「気に入ってくれるといいんだけど・・・」
空色の小さな箱にかけられたリボンを外すと言った。
「・・・素敵。」
そして彼女は例の指輪をはずそうとした。
「はずさないで。」
僕は、彼女の手をとって指輪を元の位置にもどした。
「これは、僕にとっても大事な指輪なんだ。君と僕を結びつけてくれた・・・そうだろう?だからはずさないで・・・」
僕は、彼女の同じ左手の薬指に重ねてもう一つの指輪を押し込んだ。
彼女の指輪にはプラチナに三つのサファイアが埋め込まれている。
僕が贈った指輪には、同じプラチナに小さなダイアモンドが二つ埋め込まれている。
そしてそれが重なったとき、彼女は思わずつぶやいた。
「・・・カシオペア・・・」
「ふたつで一つ・・・」
指を広げてしばらく指輪を見ていた彼女の目からひと粒の涙がこぼれた。
「ありがとう・・・彼があなたを選んでくれたのね。」
僕は、もう一度彼女を引き寄せた。
とても長くて、柔らかいキスだった。
僕たちは、アニータと翔の待つアパートに向かって歩いていた。
「ね、『オータムインニューヨーク』って観た?」
「もちろん。もう何回も観た。でもね、私は最後まで観ないの。彼女が死んでゆくの、わかっているし・・・それに、おじいちゃんになったリチャード・ギアなんて見たくないもん。」
思わず、笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
「別に・・・」
「ねぇ言ってよ。」
「僕と同じ意見だったからうれしかったんだ。あのシーンをどう思うか、君に聞きたいってずっと思っていたから・・・あーすっきりした。」
「へんなの。」
そう言って梢が笑った。
どんな理由だろうと笑えばいい。
僕なんかさっきからずっと顔がニヤついている。
映画『卒業』で花嫁を奪い取ったダスティン・ホフマンがバスの後部座席でニヤついていた。
きっと、今の僕と同じ気持ちだったに違いない。
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