20
秋が終わり、季節は冬へと移って行った。
その頃の僕は、翔とアニータの支えになることを生き甲斐としていた。
だから、かえっていい仕事ができていたと思う。
僕の活躍を二人が喜んでくれたから。
僕は、時間があるかぎり彼らと過ごした。
翔に仕事上の意見を求めることもあった。
アニータは会社を辞めて献身的に翔に尽くしていた。
彼女は、金銭的なことを決して親に頼らなかった。
食事も自分で作っているようだった。
そんな彼女を見て僕は、彼女の覚悟が本気だと感じた。
翔の傷は、まだ痛々しく、そしてサングラスをいつもかけていた。
「悟、そろそろ映画を観ようよ。」
アニータと僕は、顔を見合わせた。
「『Sleepless In Seattle』を観るって約束だったじゃないか・・・僕は音だけで情景がわかるから気にしないで。」
「わかった、観よう。」
僕は急いでDVDを取りに戻った。
ついでにすべてのDVDを持ってきた。
もちろんポップコーンも。
映画には必需品だ。
いつものようにアニータが冷蔵庫からダイエットペプシを3本持ってきて、そして翔と僕の間に体をくっつけて座った。
「わからないところは、俺が説明してやるから・・・」
「大丈夫、勝手に想像するから・・・主役は誰なんだっけ?」
「そうだな、簡単に登場人物だけ説明しておこうか。トム・ハンクスがサム、その息子がジョナ、彼らはシカゴから引っ越してシアトルに住んでいるんだ。そして遠くボルチモアにいるアニーがメグ・ライアン。」
「『You’ve Got Mail』と同じふたりだね。オーケイいいよ、はじめて。」
この映画は、小高い丘の上にある墓地でサムが息子のジョナに妻の死を説明しているところから始まる。
というより自分に語りかけているのだ。
サムは妻の死を現実として受け入れられないでいる。
僕は、この映画を何度も見ている。
目を閉じてみた。
翔が音だけで何を感じるのか自分も理解したかったからだ。
今どこにいるのか、誰と話しているのか、たぶん翔にはわからないだろう。
でも言葉には気持ちがある。感情は伝わってくるのだ。
物語が進むに連れて翔なりの設定がされて、僕たちとは少しだけ違う物語を空想して楽しんでいるようだった。
それでも時々今誰が言ったの?とか、どんな表情をしたの?とか聞いてきた。
いよいよ物語も佳境に入ってきた。
最初にアニータの目から涙がこぼれた。
今回の涙は今までと違って清々しい涙だ。
翔のサングラスからも涙がこぼれ落ちる。
それをそっとアニータが拭き取ってやった。
「悟も逢えるといいね。」
翔が言った。
「ああ・・・」
電動カーテンが開いてゆく。
このカーテンが開くたびにドラマチックな物語が始まりそうで怖かった。
外は、雪が舞い始めていた。
今年はニューヨークでホワイトクリスマスだ。
秋が終わり、季節は冬へと移って行った。
その頃の僕は、翔とアニータの支えになることを生き甲斐としていた。
だから、かえっていい仕事ができていたと思う。
僕の活躍を二人が喜んでくれたから。
僕は、時間があるかぎり彼らと過ごした。
翔に仕事上の意見を求めることもあった。
アニータは会社を辞めて献身的に翔に尽くしていた。
彼女は、金銭的なことを決して親に頼らなかった。
食事も自分で作っているようだった。
そんな彼女を見て僕は、彼女の覚悟が本気だと感じた。
翔の傷は、まだ痛々しく、そしてサングラスをいつもかけていた。
「悟、そろそろ映画を観ようよ。」
アニータと僕は、顔を見合わせた。
「『Sleepless In Seattle』を観るって約束だったじゃないか・・・僕は音だけで情景がわかるから気にしないで。」
「わかった、観よう。」
僕は急いでDVDを取りに戻った。
ついでにすべてのDVDを持ってきた。
もちろんポップコーンも。
映画には必需品だ。
いつものようにアニータが冷蔵庫からダイエットペプシを3本持ってきて、そして翔と僕の間に体をくっつけて座った。
「わからないところは、俺が説明してやるから・・・」
「大丈夫、勝手に想像するから・・・主役は誰なんだっけ?」
「そうだな、簡単に登場人物だけ説明しておこうか。トム・ハンクスがサム、その息子がジョナ、彼らはシカゴから引っ越してシアトルに住んでいるんだ。そして遠くボルチモアにいるアニーがメグ・ライアン。」
「『You’ve Got Mail』と同じふたりだね。オーケイいいよ、はじめて。」
この映画は、小高い丘の上にある墓地でサムが息子のジョナに妻の死を説明しているところから始まる。
というより自分に語りかけているのだ。
サムは妻の死を現実として受け入れられないでいる。
僕は、この映画を何度も見ている。
目を閉じてみた。
翔が音だけで何を感じるのか自分も理解したかったからだ。
今どこにいるのか、誰と話しているのか、たぶん翔にはわからないだろう。
でも言葉には気持ちがある。感情は伝わってくるのだ。
物語が進むに連れて翔なりの設定がされて、僕たちとは少しだけ違う物語を空想して楽しんでいるようだった。
それでも時々今誰が言ったの?とか、どんな表情をしたの?とか聞いてきた。
いよいよ物語も佳境に入ってきた。
最初にアニータの目から涙がこぼれた。
今回の涙は今までと違って清々しい涙だ。
翔のサングラスからも涙がこぼれ落ちる。
それをそっとアニータが拭き取ってやった。
「悟も逢えるといいね。」
翔が言った。
「ああ・・・」
電動カーテンが開いてゆく。
このカーテンが開くたびにドラマチックな物語が始まりそうで怖かった。
外は、雪が舞い始めていた。
今年はニューヨークでホワイトクリスマスだ。